灰色の影(1)

腹がへった。長らく何も食ってない気がする。

通りを黙りこくって歩きながらそんなことを考えていた。

 

ここはN小路通り。かつてこの街が都と呼ばれた頃からある由緒ある市場だった。幼い頃は母に連れられ、おせちの買い出しによく来ていた。人々が溢れ師走の名にふさわしい様相を呈していた。しかし、今では昼間からシャッターのしまった店もぽつりぽつりとあり、寂れた空気も漂う。

だが、私はここが好きであった。道に置かれた色の落ちたバケツやうっすらと埃の積もった自転車はどこか親近感が湧いた。

 

魚屋や青物屋が並ぶが私は見向きもせず歩く。そもそも店によったとて何かを買えるほどの金はない。私にはポケットに入った小銭と擦り切れた手帳以外の所有物はなかった。

 

まだらな人混みを避け、進むと正面に神社が見えてくる。道を曲がり、学生と外国人が往来するS商店街を見つめる。

かつては自分もここにいる学生らと同じように友人達と歩いていたことをぼんやりと思い出す。  友人達は元気にしているだろうか、と思ったが考えるのをやめた。元気にしていようがしていまいが今の私には関係の無い事だ。

 

2月の冷えた風が吹く。急いで目的地へ向かった方が良いと思い、早足で人混みの間を縫うように進んでいった。